- 國武先生の講演要旨
西門幹事長】それでは、早速ではありますが、来賓の國武教授によるご講演を頂きたいと思います。
まず始めに、國武教授の簡単なプロフィルを紹介させて頂きます。
大学院先端科学研究部(工学系)の教授であらせられます。また、これはホームページから拝借したものですが、工学研究機器のセンター長も兼任されていると言う事です。
そこで、工学研究機器センターとは何かと言う事ですが、ちょっと調べてみた結果、次の通り書かれていました:
工学部の所属の研究機器の共同利用施設として設立され、多数の研究室からなるプロジェクトをセンターに集中させることで高度な研究・教育を効率的に推進する。
それでは、国武先生、宜しくお願いします。
國武先生のご講演】過分なご紹介、どうも有難うございます。國武と申します。昭和58年に工業化学を卒業させて頂きました。今日は、すごいタイトルをつけていますが、一応、化学(ばけがく)でして、専門はちょっとややこしいいのですが、電気化学、表面化学及び高分子化学など、何でも屋です。
まず最初にお礼を申し述べさせて下さい。
もう3年前になりますが、工学部120周年記念の実質的な実行委員長を仰せつかっておりまして、その時、「中部支部には名物が有るよ」と言う事を伺って、「これは一寸、最後を締めて頂きくにはお願いするしかないな・・・・」と言う事で、見事に締めていただきました。一緒に、現役の応援団にも出てきてもらって、その魂をひき継いでもらえたのではないかと、設定した者としては勝手に喜んでおります。どうも有難うございます。
実はご存じかも知れませんが、工学部は、正確には2年前から、実質的には今年から、改組しております。元々、7学科だったものが、大きく4つのグループに再編されました。
土木・建築学科は、一旦は分かれていましたが、再度くっついたと言う形になりました。それから、機械数理工学科、これは元々数理工学と言う規模は小さいながら数学の学科が存在していたのですが、これが機械とくっついています。
それから、情報、電気、電子が情報電気工学科として再編され、それから、私が所属しております化学(バケガク)系と、以前はマテリアルと言っていた金属、材料系の学科が材料応用化学科として一つの学科組織になりました。
これからは、1年生の入学時には、以上の4学科のどこかに学生さんは入って来て、そこから1年間勉強してもらってから、それぞれの教育コースに分かれると言う形の教育方針に変わりました。
一つは、少子化で子供が減ってきたと言う事もあって、学科の間口を広げておこうと言う事と、大学に入る時から選ばせるのではなくて、入ってからもう少し専門性を選ばせる時間を置いた方がいいと言う、今の教育の流れになっていまして、このような形になっています。
それぞれ此処にありますが、土木工学とか地域デザインとか建築学等、こういったものが教育コースになります。2年生になるとそれぞれに分かれると言う形です。
そうすると「自分が卒業したのは何学科なんだ?」と疑問を、ひょっとすると持たれるかもしれませんが、運動会等を含めて従来の学科の流れで行っておりますので、入口はこのように再編されましたが、実質的には旧七学科がほぼ残っています。
尚、その節は皆様に御心配いただきましたが、平成24年(7月)の大雨による洪水で熊大近辺では、熊大前の道路等で水が氾濫し冠水被害が発生してしまいました。(平成24年7月九州北部豪雨)。その後、5年位をかけて護岸工事が進められた結果、工事もほぼ終わりかけたかなと思われた今年、又、大雨に見舞われました。益城地方は結構な被害が出てしまったと聞いておりますが、大学付近では、難を免れました。
この写真は一号館ですが、地震(平成28年4月、熊本地震)の時に凄まじい被害を受けまして、見られた方もいらっしゃるかもしれませんが、建物自体は持ちこたえたのですが、1階には鉄筋が割れてコンクリートがむき出しになっているところもあります。これが建て直されまして、今ちょうど新しい建物になった所です。
これはちょっと前の写真なので、今はもっと綺麗になっています。これは機械遺産、いわゆる工学記念館です。煉瓦が壊れていますので、これと五高記念館は修理にまだまだ年数がかかりそうです。修理費用も確か60億円程度かかるそうですが、その一部は国からの補助金で賄われます。
実は、この一号館は震災復興予算で立てなすことになって、1年余りで工事が終わったのですが、工事に際しては、隣の100周年記念館に振動が伝わってはいけないと言う事で、私には専門外で詳しいことはわかりませんが、レーザー測距器で振動を常時モニターするなどして、異常振動を検知したら直ちに工事を中止する等の対策を取りながら、相当慎重に工事が進められたそうです。
建築と土木の先生方は、本当にご苦労をなされて、計3回引っ越しをする羽目になったはずだと思います。化学の建物の前にプレハブを建てて、そこで1年間ほど過ごして頂いて、今はもうこちらにほゞ、移り終わったかどうかと言うところになっております。
尚、工学部研究資料館ですが、今はこのように完全に覆われてしまって、多分、煉瓦を一つづつ積み直しているのではないかと思います。
ここからは、チョット少し、研究の話と言いますか、私の専門の話をさせて頂きます。
「分子の気持ちで設計する高分子材料」という、すごいタイトルになっておりますが、基本的に、高分子の材料屋の話です。(別添資料関連写真番号:図1、以下同)
ちょっと口幅ったい話ですが、学生さんたちに何を説明しているかと言いますと、「世の中は階層的だよ」と言う事です。会社でいいますと平社員から、課長さん、部長さん、社長さんと言った階層性もあるけれども、世の中を理解しようと思ったら、世の中にはどういう階層性が有るのかと言う事を、それが良いとか悪いとか言う事はさておいて、まず理解してもらうように努めています。
我々は、新しい社会を切り開いていくために、改良・改善をしてゆくわけですが、色々な問題を解決するためのソリューションも、社会生活を変えるのか、基盤を変えるのか、製品を変えるのか、デバイスを変えるのか、部品を変えるのかに応じたそれぞれの視点が有ります。
我々は材料屋ですのでその部品を構成する材料をどのように作っていくかを考えます。材料は金属、セラミック、ポリーマーの3種類に大分類できますが、今はもうそれぞれが分かれているのではなく、これらをどう複合化していくか、しかも原子スケールでどう複合化するかと言うところまで来ております。
これは金属屋さんも一緒だと思いますが、我々化学屋はこの材料の中における構造の階層性と言うのが専門になります。材料を設計して作成し、材料評価・機能評価すると言うサイクルをぐるぐる回してゆくわけです。構造を作り、構造がどうなっているか調べ、その構造の特性がどうなっているか、作り方、つまり合成とか重合と構造の相関性、構造と機能とのつながりなどが研究対象です。
我々が相手にしているのが原子・分子でして、原子や分子を切った張ったするのが商売ですので、ここでいう構造と言うのは原子・分子の、時にはいわば配列です。そういったものを直接目で見ることはなかなかできませんが、手段がないわけではありません。或る一面なら見ることはできます。又、原子や分子の一個一個に、「お前は此処にいろ、お前は其処にいろ・・・」と指示することはできませんので、自己組織化という事が研究テーマとして非常に重要になります。「勝手に生じる構造をどう制御するか」と言う事が我々の問題意識です。(図2)
以上申し上げたことは、ナノテクノロジーともいえるのですが、ナノテクノロジーには大きく、二つの方向性が有ります。
一つはトップダウンです。いわゆる半導体を作っている技術で、どんどん小さく小さくスケール・ダウンすると言う技術です。
それに対して、ボトムアップと言う考え方が有ります。要するに、原子・分子がどのように並んでいくかと言う事を、制御すると言う話です。
実は、半導体の分野ではもうすでに10ナノメートルを切るような世界で構造を制御すると言う話になっています。
分子の写真を撮ると言うのが私のもう一つの専門です。実はこの写真の一つ一つが、ポルフェリンという分子です。これはクリスタルバイオレットと言う色素です。ここに3色団子みたいな構造が並んでいますが、そのような分子が並んでいる様子を、直接観察する技術をもっています。こういう風に並ぶと言う事は、実際は、「並ばせなければならない」と言う事でして、並ぶような条件にうまく合わせていかなくてはなりません。そのように並べてやることによってはじめて観ることが出来る事になります。(図3)
物質の三態、つまり、気体・液体・個体に関しては、温度を軸に考えますと温度が高くなると個体は融点で液体になり、沸点で気体になります。一方、温度軸に対するもう一つの軸、即ち圧力とか密度を軸に考えますと、密度が大きくなれば個体となり、逆に低くなれば気体になります。(図4)
構成している原子や分子の間で反発しようとする力と集まろうとする力、これらをそれぞれ、エントロピー(entropy)とエンタルピー(enthalpy)と言っているわけですが、この二つの力をどうバランスさせるかということで、構造が自発的に決まってきます。
物質が気体になると、いわゆる、エントローピー的な力(これは反発力・分散力だと考えてもらったらいいのですが)が支配的になります。
学生さんにも言っていることですが、「君らは親御さんに対して反発もするだろう、でも、慕っているところもあるだろう。これは、どっちかしかないのではなくて、両方あって周りの環境によって、どっちが強く出てくるかということが起こるんだよ。それと同じことが分子や原子の世界でも起こりますよ」ということです。
これを利用して、ただ並べるだけでなくて、いわゆるシフ ベース カップリング(Schiff base coupling)、つまり有機化学反応を使って、このような分子同志を自発的に界面で結合させて2次元のナノシートを作るというようなことをやっております。(図5、図6)
こういう研究で大事なのは、実は、平衡ということです。例えばこちらのポルフェリンでは、4つ手がある分子を手が2つある分子でつないでいっているわけですが、結合の仕方を注意深く観察すると、結合―切断―結合・・・というふうに、切った張った・切った張ったを繰り返していて、それを繰り返すうちに最もエネルギー的に安定な構造として、結果的にこのような構造を作るわけです。つまり、一気に作るのではなく、繋いでいったり外れて行ったりを繰り返させることでエネルギ的に安定な構造に落とし込むことができます。
これは先ほどご紹介したものですが、π―共役を持ったナノシートです。こういう結合のものを自発的に作ることができましたので、これを何か機能性を出せないかと研究しているところです。こういった物というのは、グラフェン、つまりカーボンといわれるもので、鉛筆がその典型例です。つまり、鉛筆の中に含まれているシート状の構造を一枚取り出したものがグラフェンになるわけですが、これは炭素からのみできていまして完全に導体です。これを、どうやって半導体にするか、今盛んに研究されています。
こういう材料を自在に配置して半導体性と導体性を作り分ける事が出来るようになれば、それだけで現在のCPU(Central Processing Unit)を超える半導体が作れるはずです。「適切な位置」に「適切に置く」と言う技術がまだないと言う事です。
材料の構造は、秩序性を有する結晶と、秩序性のないアモルファスに大別できます。もう一つの観点として、静的な構造と動的な構造が有ります。静的と言っているのは固体です。動的と言うものの代表が液体です。
固体は、いわゆる、フックの法則に従います。言い換えれば、応力は歪に比例すると言う関係です。
一方、液体はニュ―トンの法則に従います。つまり、応力は変形速度に比例すると言う事になります。この様な液体的な性質と固体的な性質の両方を併せ持つものが、ソフトマテリアルという比較的新しい概念の材料になりまして、ポリマーだとか液晶などが此処に入ってまいります。
ただの液体も有りますが、ある程度の秩序性を持ったうえで動的な構造性をどう制御するか、スケールの構造とタイムスケールの構造をどう制御するかが課題です。
もう少し一般的な話をしますと、あらゆる材料の中で高分子材料は、皆さんの周りでも非常に良く使われていると思います。高分子だけでは特性を出し切れない場合、無機材料と複合化したナノコンポジットだとか有機−無機ハイブリッド等が非常にポピュラーに使われています。そのような先端材料で、常に問題になるのが、トレードオフです。(図7)
色々な特性を要求された場合、一つ一つを満たす事は、それほど難しい事ではないのですが、相反するもの、こちらを上げればこちらが下がりますと言う様な関係性を持った性能を「でも、両方とも上げろ」と言われる場合、それに対してどうするのか言う事になります。私たちが送り出した学生さん達も、実社会・企業で将にそういった開発で、特に材料系のところは、皆さん苦労している所だと思います。
先ほどの有機‐無機コンポジットについて言うと、なにか無機物を入れて行って、特性Aは上がるが特性Bは下がる場合、有る所で妥協しましょうと言う話になることは普通にあることだと思います。その妥協点より更に望ましい特性を上げろと言う事になると、この中の構造性を制御することになります。そのような制御は自己組織化的、ここに居る分子や原子やクラスター君たちがうまく並びたいように並んでくれると言う事が必要になります。
その端的な話をしますと、ポリマーマトリックスの中に無機のフィラーみたいなものを入れていくことで、特性を上げると言う様なことはごく一般にやります。入れて行けば入れていくほど特性は上がります。(図8)
しかし、一般的に、必ず頭打ちになります。その頭打ちになる所は何かと言いますと、分散して導入される間、性能は上がっていきますが、有るしきい値を超えると分散力より凝集力の方が上回って、ナノフィラーの凝集が起こり、性能低下につながります。
その場合、そのナノフィラーに一寸、化学収縮でもしてやってポリマーに溶けやすくすれば、また特性は上がるのですが、どこかで頭打ちになります。
そのような訳で、ひとつは「熱力学的に」と言っているのは、溶けやすくしたりすることで分散性を上げます。一方、速度論的、化学的と言っているのは分散している状態のまま、架橋なり何なりで止めてしまうと言うような戦略なのであります。
我々は、今、このナノフィラーを直接ポリマーに繋いだような新しいタイプのポリマーと言うものを開発しております。しかし、その話の前にもう一つ、パーコレーション(Percolation)という概念を、その構造とどう関係するかと言うところでご説明させて頂きます。
パーコレーションと言うのは「浸み出し」と言う事で、ご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、まさに、ポリマーの中に添加物を加えて行ったらどうなるかと言う話です。
(この写真は)あまりきれいではありませんが、溶液中などでキチンと見ると、或る程度密度が低いときには、粒子は完全に孤立して等間隔で並んでくれます。ところが、ある程度以上の密度になると、つまり、斥力と引力のバランス関係で並び方が決まります。
此処で重要なことは、細密充填領域を詳しく見てみると、実はこういう隙間がいっぱいあります。つまり、全面を埋めるほど粒子を置いているから埋まっているのではなく、有る量を超えると、集まったほうが安定化するために、集まっている所と、集まってない所のムラが生じるわけです。
丁度、このあいだのところに、パーコレーション(染み出し構造)とよばれる、紐状に繋がったような構造があることが知られておりまして、実際に観察するとそういうところが出てきます。
材料の際(きわ)を攻めると言う事になりますと、まさにこの辺の構造になります。ちょっとトレードオフの例としてお話ししますと、「熱伝導率は上げたいが、絶縁性は保ちたい」と言う場合、ポリマーは絶縁性で添加物が伝導性ですと、添加物はどんどん増やしていきたいけど、繋がってしまうと伝導性が出てしまうので、パーコレーション臨界と呼ばれる、これが繋がる前のところで止めなければいけないことになります。
逆に、「帯電防止したいけど、添加物はできるだけ入れたくはない」と言う場合には、できるだけ少量でこの繋がった構造をとるように誘導してやる必要が有ります。
いつも引き合いに出す話ですが、京都に行くと私は必ず鴨川で写真を撮るようにしています。
鴨川の岸辺に行くといつもカップルが等間隔で並んで座っています。カップル同士は意識していませんが、カップル内では強い引力が働いていると思います。しかし、カップル間では反発力が働いているので、二つのカップルが離れて座っていて、3番目のカップルは必ずその真ん中に座ります(笑)。そのような繰り返しが集まることで、自然と構造が生まれてきます。
上に述べたことを思い出して頂くと「これも自己組織化ですよ」ということを御理解頂けると思います。(図9)
この写真では1円玉が並ぶ例を出していますが、分子も、原子も人間も、同じで、ここら辺が構成要素の気持ちになってどうなるかを考えると言う事が、それが自己組織化だよ、自己組織化を考えると言う事だよと言う風に学生さんたちに指導しているところです。
相反する相互作用をうまくバランスさせてやると、実は、隠れていた小さな相互作用が現れてきて、それによる構造の多様性(diversity)が出てきます。そうすると、次はそれをどう制御するかと言うところの話になります。それでは、実際にどのようなポリマーを開発しているかと言うところを最後にちょっとお話しさせて頂きます。
このスライドのような、かご型シルセオキサン(シロキサン)と言うものをご存知の方もいらっしゃるかもしれません。いわゆるNASAが開発したとか言われるものですが、NASAがもともと耐熱材として取り上げたことから有名になったもので、その原料はいわゆるケイ素です。
ケイ素と炭素はとてもよく似ているところがあります。
ケイ素と炭素だけが自分たちだけで幾らでも繋がってゆけると言う特性を持っています。また、炭素もケイ素も手が4つあります。同じように手が4つあるのですが、ケイ素―酸素―ケイ素―酸素・・・と言う形で繋がって行って4つの手が全部繋がっているとこれは、いわゆる、ケイ素ガラスと言う事になります。
また、これらの中の手を2つつぶすと、リニアな構造になって、これがシリコンポリマーと言うものでして、シリコンゴムだとかシリコンオイルがこれに相当します。これは間にO(酸素)が入っていることによって、実は回転自由エネルギがほとんどありません。非常に柔らかいポリマーで、オイル状になっています。マイナス50℃〜60℃位迄、温度を下げないと固体化しません。
4つの手の内一つだけ有機成分で止めておくと3つ手が残ります。これをシルセオキサンと言いますが、3つ手が残るとネットワーク状、架橋状の構造も作れます。それからさらに進んで、閉じた構造(デスクリート)というものが有りまして、その一つがこのようなかご型、サイコロ状の構造になります。
一例として、こういう固い構造と柔らかい構造を組み合わせたポリマーというものを某メーカ様との共同開発をやっております。
固い構造の丁度この部分が、言うならばフィラーなのですが、フィラーをマトリックスに元から繋げたような構造を持つ、粉末状の物質が重合工程を経て、最終的に無色・透明の無定形高分子で耐熱性が400℃以上で尚且つ、フレキシブルな特性を有する、ポリマーになります。
特徴は、階層的に構造をデザイン・合成することが出来ると言う事で、実はこのカゴの部分とそれを繋ぐシロキサン鎖の長さを自由に変えることが出来ます。加えて全体としてのポリマーの分子量を制御することが出来ます。その上で末端のみを架橋するという技術を持っております。
さらにこのシロキサン鎖を繋ぐにあたっても、同じ長さ、長いもの、短いもの等、或いはランダムになるも等も作り分けています。
これはいわゆるアモルファスポリマーと言うもので、構造としては全部ポリマーとしてランダムなのですが、カゴとソフトな鎖の間の割合は変えなくても中の配列を変えてやると、その違いがちゃんと物性に反映されてまいります。このような透明でフレキシブルなポリマー、その硬さ・柔らかさは自由にコントロールできます。
例えば耐熱性を見てみると、5%分解で480℃、今、500℃近いところまで来ています。有機ポリマーとしては殆ど最高クラスです。ポリイミドがこれより高いケースがあるかと思いますが、透明でフレキシブルでこれだけ温度が高いという点では、たぶんチャンピオンかなと思っています。
実は今日ご参加の皆様の中には、自動車関係の方も多いと思いますが、耐熱性が高いと言う事は、LEDの封止材とか、自動車のヘッドランプとか、そういったところの応用面が考えられると思います。ガラスをプラスチックで代替できないかと考えた場合、シリコン系かエポキシ系かで競いあう事になると思います。その場合、ポリマー材のネックは、ずっと使っていると段々黄色くなっていくところです。しかし我々がやっている範囲では、このポリマーは全然黄色くならない、黄変が起こらないと言う事で注目されております。
更にもう一つ面白い特徴は、この架橋してないポリマーが接着剤になると言う話です。(図10)
ホットメルト接着、いわゆる熱をかけて圧着して温度をバランス点温度以下にして固化すると接着力を発揮して、また温度を上げると外せると言うものです。基盤の間にポリマーを入れてプレスするだけですが、非常に強い接着力を示していまして、これは20kgを学生さんがぶら下げて持っていますが、ステンレス同士をつないでハンマーで叩いても何も起きません。ガラスとかで貼っても、ガラスに方が壊れるぐらいです。今のところのチャンピオンデータで2キロニュートン位だったと思います。勘定すると、1?の接着面を離すのに200kg以上の「力」が必要になります。
そういったものが透明で可逆的に接着できる、しかも、金属だけではなくて、親水面でも疎水面でもくっつくと言う面白い現象を見つけています。
化学反応は全くありませんので、ポリマーと表面の間の相互作用は、いわゆるファンデルワールス力しかありません。ファンデルワールス力と言うのは物体と物体が接していたら必ずそこにある相互作用で、普通はそこに共有結合なりなんなりの強い相互作用が有るものなのですが、そのようなものが無くても、(ファンデルワールス力は)成り立つものです。時間の関係で、ここら辺は省略させて頂きます。
全然違うテーマですがチョットだけお話しさせて頂きます。
マイクロエマルジョンと言いまして、水と油を界面活性剤で混ぜますと、本来混ざり合わないものを混ぜ合わせる事が出来ます。
これをうまく作りますと、水と油がどちらにも連続相、両方混じりこんだような構造を作ることが出来ます。例えばこういうものを使って、電気化学的に処理しますと、親水的なビタミンCと油に溶けやすいビタミンEを、個別に測りとると言う技術を開発しまして、これを食品業界に今売り込もうとしています。(図11)
「こんなものがポリマーとどう関係するのか」と思われるかもしれませんが、実は、水と油が分かれる、そこに界面活性剤と言う両方に馴染みを持ったものを入れる事で混ざり合うと言う、この構造の制御は高分子と全く一緒です。
以上、雑駁になりましたが、構造と特性がどうなっているか、特に、意図せずして生じる構造を、どのように目に見えない所を制御するかと言う事を考えてみました。
よく、教え子さんから電話がかかってきていろいろ相談を受けます。そんな時、答えられる事も答えられない事も有りますが、一緒に考えてあげると言う事は何時も心掛けたいと思っています。
諸先輩方からも何かありましたら、お声をかけて頂ければと思います。
此処で紹介した材料は、実はもう、ポリマーの開発フェーズから使う方のフェーズになっておりまして、会社名は此処では申し上げられませんが、自動車系とか電子材料系等、10社以上のところと、今いろいろ話が進んでいます。ただしその場合、それぞれの用途に合わせて、やはり、チューンしないと実際使えないと言うのが、やっぱり難点だと思います。
と言うわけで、私も昭和30年代からずっといますが、私の知る限りでは、昭和時代から有ったお店の中でここ以外は全部つぶれました。まだ
「もっこす」はそのままやっていらっしゃいますので、熊本に帰ってくる機会が有りましたら、是非、大学と併せてお立ち寄り頂ければと思います。本当に、昭和の香りが残っております。(図12)
どうもありがとうございました。(拍手)
國武先生の講演内容に関しましては、こちらのPDF資料 『R1中部支部総会講演写真』も併せてご覧下さい。
西門幹事長】國武先生、貴重な講演有難う御座いました。
最初の方に「トップダウン」や「ボトムアップ」と言った、我々、管理側としてよく使っているような言葉が、学術的な用語として出てきたところは新鮮だったなと思います。
また、ボトムアップと言う言葉と自己組織化となぞらえてのお話がありましたが、しかしそれはエネルギの安定した状態でなければ、そういう風にはならないと言う事を改めて教えて頂いて、我々も企業の戦士として、そういう気持ちでやって行かなければならないのかなと言う風に思った次第です。本当に有難うございました(拍手)
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